突然、姿を消した息子の家出調査

「少し疲れたから、旅に出てくる」

三年前、大学に入学したばかりの一人息子が、手紙を置いて家出しました。

思い当たる失踪の原因は、大学受験だったのではないかと思います。と言うのも、妻が非常に教育熱心で、自身も有名女子大を卒業していることを鼻にかける癖があり、息子にあらぬ期待をかけ続けていたのです。「息子には息子の人生があるのだから、無理強いは止しなさい」と日頃から諭してはきたのですが。どうしても息子と接する時間が多いため、大学受験に関しては、彼女が主導権を握っていたように思います。

そして、受験シーズンが到来し、第一志望には落ちたものの、第二志望には受かり、私の息子ながら頑張ったなと安堵していたところ、妻には不満の残る結果だったらしく、息子に浪人をして再受験して欲しいと懇願し出したのです。

このことが、気の弱い息子には耐えられなかったのでしょう。「大学はたのしいか」と尋ねても馬耳東風で、自分の殻に閉じ籠り始めました。

そして、ゴールデンウィーク明けの五月中旬、手紙を置いたまま家に帰ってこなくなりました。

失踪時の服装は大学に通う普段着だったので、そう遠出はできないだろう、キャッシュカードで引き出せる現金が底をつけば、いずれ帰ってくるだろう、最初の頃はそう高を括っていました。

しかし、何の電話もなく、三か月が過ぎた頃には、さすがに私も心配になり、息子のパソコンで閲覧履歴を調べたり、友人、知人に連絡を入れたりして、方々調べ回りましたが、何ら手がかりを掴むことはできませんでした。妻は「私がいけなかったの、私が・・・」と泣き崩れるばかりです。

もうこうなると、素人調査では埒が明かないと思い、信頼のおける大学時代の友人に相談してみたところ、S市にある探偵事務所を紹介してくれました。

息子の行方は

早速、妻、友人と共に大通りに面した雑居ビル二階にある事務所を訪ねてみました。担当して下さった探偵歴15年の男性に、息子の氏名、年齢、写真、失踪時の服装、所持品(スマホ、携帯電話、キャシュカード等)、友人関係等々を包み隠さず、詳細に話しました。

調査は、難航を極めました。

調査開始から二週間が過ぎても、息子の行方は一向に掴めませんでした。担当の男性も極めて困難な調査になりそうだと伝えてきます。妻の半狂乱振りは目を覆わんばかりに酷く、日に日に衰弱していきました。

そして、一か月が過ぎようとしていた九月上旬、やっと行方が分ったという連絡が事務所から入りました。息子は何と悪徳霊感商法会社の社員として、全国を飛び回っていたというのです。

気の弱い息子が、どうして?

理由は、簡単でした。家出をして、お金が無くなった時、新聞の求人募集欄に掲載されていた連絡先に電話をしたら、この霊感商法会社の仕事を手伝わされ、スマホも携帯も何から何まで取り上げられて、逃げたら両親を痛い目に遭わせるぞと脅しをかけられ、ズルズルと仕事を続ける羽目になってしまったということでした。

もし、探偵事務所の方が探し出して頂けなかったら、今頃息子はどうなっていたかと思うと、空恐ろしい気がします。本当にあの時は、探偵事務所に家出調査を依頼して良かったと思っています。

妻もこの一件で懲りたのか、あれ以来、息子の意志を尊重するようになりました。息子も大学四年になり、来年はいよいよ就職です。(当時のことを、今では笑って話せるようになりました。)

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